「決めゼリフをいくつか覚えておけば、ナンパで場が冷えることはない」。この説はネットでよく売れる。掲示板の「最強の口説き文句」スレから、何千円もする「ナンパトーク集」まである。
先に結論を言っておく。口説き文句でたまに笑いはとれても、会話につながることはめったにない。知らない人に使うと、たいていは「こんにちは。素敵だと思って、知り合いたくて」という普通のひと言より効かない。
定番をひとつ。
「君と星の違い、知ってる?星は空にあって、君は俺の心にいる。」
付き合って3年の恋人が夕食中に急にこれを言ったら、吹き出すほど笑うかもしれない。行列に並んでいるときに知らない人が近づいてきてこれを言ったら、たいていの人は礼儀として少し笑って、離れるチャンスを探し始める。同じひと言なのに、効果がこれだけ違う。その理由がこの記事の中身だ。
なぜこんなに多くの人が、セリフは効くと思っている?
この誤解があるのには理由がある。実際に効いているように見える理由がいくつかあるからだ。
- ネットで見るのは成功例だけ。ナンパの動画の切り抜きに残るのは、相手が笑ったところだけで、白い目で見られたところや無視されたところはアップされない。10回の成功を見たからといって、10回中10回成功しているわけじゃない。
- セリフは緊張している人に安心をくれる。手元に台本があれば、頭が真っ白にならない気がする。この気持ちは本物だけど、解決策が間違っている。
- 仲のいい人同士なら本当に面白い。友だちのグループLINEにクサいセリフを投げたらみんなが笑った。だから知らない人にも効くと思ってしまう。でも友だちが笑うのは、もともとあなたが好きだからだ。
- 売っている人がいる。「3つのひと言で彼女が興味を持つ」は、「少しずつちゃんと話せるようになる」よりずっと売れる。
研究ではどう?セリフは普通の第一声に負ける
心理学者は何十年も前から第一声を研究している。1986年、クリス・クラインケらは参加者にいろいろな第一声を採点してもらった。大きく3つに分けると、口のうまさで勝負するかわいい・軽いタイプ(上の星のセリフみたいなもの)、無難なその場のタイプ(「この店、どう思う?」)、ストレートなタイプ(「ちょっと照れるけど、すごく知り合いたい」)。結果、軽いタイプの評価が一番低く、特に女性の参加者に嫌われていた。その場のタイプとストレートなタイプは、どちらもそれより好まれた。
1989年、ルイビル大学のマイケル・カニンガムはバーで実際に実験をして、この3タイプの第一声で本当に話しかけてもらった。見えた方向はほぼ同じだった。話しかけられた女性は、ストレートで無難な第一声によく反応し、口のうまさで勝負するセリフには一番悪い反応をした。
これらの研究には時代と限界があって、ほとんどがアメリカで行われたもので、日本の文化とも完全に同じではない。でも「ストレートで、普通で、正直なほうが、口のうまさに勝つ」という方向は、たいていの人の実感と合っている。
セリフはなぜよく失敗する?
研究が教えてくれるのは結果で、ここでは理由を話す。
誰にでも言える。相手は聞いた瞬間に、このひと言はほかの人にも言えるとわかる。誰にでも使えるセリフで声をかけられると、たまたま順番が回ってきただけのように感じる。
演技をしている。セリフを使っているとき、あなたの注意は「次に何を言うか」にあって、彼女が何を言ったかを聞いていない。彼女は自分が観客にされていて、しかも反応を期待されていると感じる。
リスクがまったく釣り合っていない。セリフがうまくいっても、手に入るのはせいぜい笑いひとつ。失敗したら、2人とも気まずくて、収拾がつきにくい。性的なほのめかしの入ったセリフはもっと悪い。知らない人にとっては、ただ安心できないと感じさせるだけだ。
あなたの一番いいところを隠してしまう。あなたの面白さは、何が好きか、何を大事にしているか、物事をどう見ているかにある。人のセリフを覚えて使うのは、彼女にあなたを知ってもらうのをあきらめるのと同じだ。
口先にとらわれる。彼女が読み取るのは主にあなたの目線、声のトーン、立ち方、全体の雰囲気で、口で言っていることはほんの一部だ。目をそらさず声がぶれなければ、ごく普通のひと言にも力がある。目が泳いで声が震えていたら、どんなにいいセリフでも取り返せない。覚えたひと言はせいぜい杖の代わりで、長く使うとかえってあなたを縛る。
「さっきレコードを選んでるのを見て、知り合いたくて来た。」
「君と星の違い、知ってる?」
「この雨、急すぎない?ここで足止め?」
「俺たち、前世で絶対知り合いだった。」
3秒置いて、さっきの話の続きをする。
なれなれしいセリフや、性的なほのめかしのあるセリフを無理に入れる。
セリフがまだかわいく済むのは、どんなとき?
クサいセリフは、たいてい使う場所を間違えている。こういう場面なら、けっこう楽しい。
- もう仲のいい相手に。いい感じの相手、恋人、親友同士なら、ふざけているのがみんなわかっているので、セリフはひとつの冗談になる。
- 自虐として使う。「すごくクサいセリフを用意してきたんだけど、言ったら自分が先に恥ずかしくて死ぬから、普通に自己紹介する。ケンジです」。クサいと認めると、かえってリラックスして見える。
- マッチングアプリで、明らかな冗談として。相手のプロフィールに星を見るのが好きと書いてあったら、あの星のセリフを投げて、「クサいのはわかってる」と足す。たまに笑える返事が来る。でもそれは氷を割るだけで、そのあとはちゃんと話さないといけない。
本当に使うなら、冗談として言う。笑いながら言って、止まって彼女の採点を待たず、すぐ普通のひと言を続ける。「うん、今のはひどかった。何飲んでるの?」。第一声で見るべきは、その次のひと言だ。
セリフより役に立つ3つのこと
- 本当のことを言う。なぜ来たのか?「さっきレコードを選んでるのを見て、センスいいなと思って、知り合いたくて来た」。最初にはっきり言えば、彼女はかえって気が楽になる。相手が「いいです」と言ったら、「わかった、邪魔したね」と返して離れる。
- 目の前のことを言う。2人とも同じかき氷屋に並んでいる、同じ展示を見ている、同じ雨で軒下に足止めされている。同じ状況にいること自体が一番いい話題だ。例はナンパの第一声の記事にもっとある。
- 自分のことを言う。本気で好きなものの話をする。最近練習しているギター、先月走りきったハーフマラソン。熱は伝わるけど、覚えたひと言は伝わらない。無料レッスンのテクニックは骨組み、熱は燃料で、本当に話せることをひとつ見つけられる。
もうひとつ。話すことがないときは、黙っていい。3秒の沈黙で会話が壊れることはない。でも空白を埋めるために無理やりセリフを入れると、特になれなれしいセリフや性的なほのめかしのあるセリフだと、よく壊れる。言いたいことは言う、なければ黙っていいのレッスンは、まさにこれの練習だ。
こういう「決めゼリフ」は、そこで終わる
ネットに出回っている「上級トーク」の中には、セリフの形をしていても、使うと彼女がますます離れたくなるものがある。こういうのを見かけたら、そのまま飛ばしていい。
- けなしてから持ち上げる。「きれいなのに、おしゃれはいまいちだね」。これをネギングという。人を下げて自分を上に見せようとしても、自信のなさが見えるだけだ。
- 口実を作って近づく。道を聞くふり、アンケートのふり、スカウトのふり。遠回りが長いほど、彼女はあなたを勧誘の人か、ほかに目的のある人だと疑う。最初に来た理由を隠していたと気づいたら、残るのはだまされたという感覚だけだ。作った口実で近づくレッスンに例がもっとあって、ストレートな第一声への直し方も教えている。
- なれなれしいふり、運命のふり。「俺たち、前世で絶対知り合いだった」「なんか、ずっと前から知ってた気がする」。確かめようのない親しさで距離を詰めようとする。
- 性的なほのめかし、下品な体のコメント。どんなに面白く包んでも、知らない人に言えば、ただ不快にさせるだけ。ほめるなら、服装や目のように、具体的で目に見えるところをほめる。
ネットのこうした「トーク術」がどうやって広まったかは、PUAとは?を見てほしい。話しかけ方や出会いのテーマは声かけ・話しかけのトピックにまとめてある。
セルフチェック:セリフについて3問で確認
1. 並んでいるとき、前の人に話しかけたい。一番会話につながりそうなのは?
2. クサいセリフを言ったら、相手は礼儀として少し笑っただけ。次はどうする?
3. 「きれいなのに、おしゃれはいまいちだね」。これは何?
よくある質問
クサいセリフを、いい感じの相手に使ってもいい?
いい。むしろけっこう楽しいことが多い。条件は、お互いふざけているとわかるくらいもう仲がよくて、相手ももっとクサいひと言で返してくること。相手が毎回礼儀として笑うだけなら、話し方を変えよう。
マッチングアプリの最初のメッセージにセリフを使ってもいい?
氷を割る用ならいい。でも効果は、たいてい相手のプロフィールに合わせた具体的な質問にかなわない。「写真のあの山ってどこ?すごく登るの大変そう」のほうが、どんな汎用のセリフよりも返しやすい。
セリフを言ったのに相手の反応がない。どうする?
堂々と認めよう。「うん、今の失敗」。そして普通の会話に戻るか、さっとあいさつして離れる。セリフのオチを無理に説明したり、すぐに2つ目を投げたりすると、もっと気まずくなるだけだ。
「それ、セリフ覚えてきたでしょ」と言われたら、どう返す?
冗談で流せばいい。「バレた。チームでやってるんだ」。慌てて説明しない。説明するほど、焦っているように見える。
たいていの人は、どんな第一声が好き?
誰もが気に入る第一声はないけど、大きな方向はほぼ同じだ。来た理由をそのまま言う、具体的なところをひとつほめる、言うときに相手を見る。何を言ったかより、相手が気にしているのは、話すあなたの様子がぶれていないか、言ったあとにちゃんと話を聞くかだ。